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術後十七日目 [闘病記]

いよいよ、明日退院。
勤務の都合で、明日は会えないからと何人かの看護師さんが、挨拶に来てくれる。此処は、内視鏡センターという病棟なので、手術後短期間で退院する人が殆ど。私のように、元気いっぱいになっても、ゆっくり入院している患者は、珍しいパターンだと思う。

毎日お掃除をしてくれたおばさんとも、仲良しになった。部屋のお花が、長持ちしてるねといつも感心してくれるので、私もオアシスに水を足したり、枯れた花だけ取り除いたりと、手間暇に精を出すことができた。おばさんにお掃除してもらってる間は、デイルームで時間を潰しているのだが、戻ってきたら気になっていた枯れかけのミニバラが取り除いてあった。おばさんも、お手入れしてくれたたんだ。廊下のおばさんをもう一度部屋に引き入れ、菓子おりを渡し感謝の言葉を伝えた。このおばさん、術後1日目、2日目の痛みがつらくトドのようにベッドで横たわってる時には、そっと静かに作業してくれていたし、私が元気に歩き出すのを見ると、「明日にでも退院できそう」と、人を喜ばす言葉をかけてくれた。患者の状態に合わせ、空気を読むことができる人なのだろう。
この病棟には、30名余りのナースがいるが、名前と顔が一致できている人は片手に満たない。そのことを、プライマリナースに言うと、「いいんですよ。覚えなくて。皆さん、そんなものです。」と。みんな、ナースキャップして、マスクして、世代も同じなため、見分けつかないことも多いらしい。彼女達の日常には、多くの患者が入れ替わり立ち替わりやってきて、同じように絶食し、下剤をかけ、手術をし、寒い寒いと麻酔から覚め、痛みに顔を歪め、ナースに支えられながら廊下を歩き、やがて回復し、食事が始まり、便が出たと喜び、あっという間に退院していく。患者にとっては、人生最大の事件であっても、ナース達にはいつものパターンなのだ。でも、彼女達は誰一人パターン化することなく、患者一人一人に対応した看護をしてくれていたように思う。業務の標準化は質のレベルアップのためには必要。レベルアップできれば、患者ごとの個別対応が可能となる余裕がでてくる。ということかな?いや、でも卒業一年目の少し頼りないナースとの世間話にも、精神的にはかなり救われたしなぁ。医療はテクニックだけじゃない、とも思う。
薬剤師が退院の薬を持って訪れた。服用しなかった痛み止めの頓服薬ロキソニン、セルベックス、持って帰るかどうか相談される。そんな頓服薬を準備してもらっていたのは、全く知らなかった。歯痛時にでも使えるし、貰っておくわと受け取ると、薬袋の名前は、赤の他人。おっと、これは明らかなミス。「ごめんなさい、最後にミスしてしまって」同業者故に、チェックが厳しくなってしまう。でも、人はミスをするもの。これくらいで、いちいち目くじらは立てない。次は「マイスリー10」。なんだ、ちゃんと私用に準備されてたのか。レンドルミンしかないと思っていたので、不眠でも我慢してたのに。せっかくなので、持って帰ることにした。その後、彼女にいくつの病棟を担当してるのか尋ねると、この一年はここだけ。でも、また他の病棟に移動予定なので「次に来られる時は、もうここにはいないかもしれません。」
「(次!?)」「(次!?)」「(次!?)」「(次!?)」頭の中で、こだま。「(再入院ってこと?)」「(どういう意味の次なんだろ?)」「(再発するってこと?)」
そこからは、上の空状態。何か質問ないかと聞かれても、全く浮かばない。今思えば、点滴を含めた入院中に使った薬についての情報(薬品名、処方に至った経緯、私への投与効果)を、聞きたかった。
他に何か聞いておきたいことありませんか?気になることはありませんか?と私も必ず患者に聞くようにしていたが、こういう質問をとっさに聞かれると、よほどのことがない限り「ありません」と答えてしまう。それを防ぐには、こちらがまずゆっくりと問いかけ、患者が考えている時には、じっくり待ち、時には「こんな質問をした人がいますよ」と具体的、代表的な質問をあげ、それを必要としているかどうか確認すべきなのだろう。患者は医療者の言葉のスピードや間合いに敏感。患者への質問と、その返答を求める際には、意識的にゆっくり目にしたほうがよい。患者説明にはスピードアップできる部分と、してはいけない部分があるということがわかった。
それと、もうひとつ。悪気がなくても、患者の地雷を踏んでしまっている場合がある。人の振りみて、我が振り直そう。
プライマリナースを通じて、担当医にいくつかの検査データの写しを依頼。腫瘍マーカーと、白血球、リンパ球など。今後、これらのデータを観察して、再発の兆候と自分の免疫力を確認していかなくてはならない。お任せ医療ではなく、患者主体の医療を目指すため。担当医たち、いやな顔せずにデータをプリントアウトして持ってきてくれた。明日は、もう会えないかもしれない。色々お世話になりありがとうございましたと、心より感謝の言葉を伝える。でも、全然伝え切れてない気分が残っている。日本人って、感情表現が苦手。欧米人だったら、ハグしあって健闘を讃えるのかな?その点、指導医は握手というコミュニケーションを絶妙のタイミングで駆使する人だったな〜。手術が決まった時の握手は、「これから、一緒に病気とたたかいましょう」が伝わってきたし、手術翌日の握手は「手術は成功しました」が伝わって安心できたし、退院決まってからの握手は私の感謝の気持ちが「伝わってますよ、ちゃんとわかってますよ」と感じさせてくれた。気持ちを伝えるには、言葉だけではなく、軽いスキンシップも駆使すること。短時間で伝わるコミュニケーション方法。
明日はお昼ご飯を食べてから退院。荷物整理をする。入院時に比べ荷物が倍に増えた。しかし、私の幸福感はそれ以上に増えている。

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Skitch-2012-03-06 04:19:09 +0000.jpg

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